日月星辰ブログ

Vive hodie.

読書感想:稲穂健市「こうして知財は炎上する ビジネスに役立つ13の基礎知識」

 新書なので楽勝で読み切れる、と思っていたけど1週間ぐらい読んでいました。本文はとても読みやすくて面白い。まったく知財の知識がないときついところはあるけれど、「基礎知識」の部分は註や図で丁寧に説明がされているので、そこで都度確認できる。もとより、例えば特許の有効期限とか、そうすっと「わか」られるほどシンプルじゃないわけで、ややこしいのはややこしんだからしょうがない。ややしょ。

 

 著者はなんというか、知性が暴走するタイプの知識人のようで、弁理士のほか、アメリカの公認会計士の資格を持っていたり、科学ジャーナリストとしても活躍しているそうである。すごいバイタリティで、こういう人になってみてえなあ、と素直におもう。

 本文の中にはときおりちらちらとギャグも交えつつ(たまにダジャレ、事例におかしみのあるものが出てくるなど、やり方が巧みで好もしい)ただでさえおもしろい他人のもめごとがどんどん紹介されてくる。知財の話に絞られていてもまあ、他人のもめごとだしね。他人のもめごとの求心力やばい。結局わたしもでばがめということである。ちょっと古い本なので、「PPAP騒動」やら、JASRAC音楽教室への著作権許諾料徴収騒動などといった、ものによっては懐かしみのある話題がちょいちょい出てくるし、法律もこの5年で改正がいくつかあったので、現行法律をカバーしているわけではないのだけれど(著作権の延長とか、コンセプトの意匠とかね)、根本的な問題点や話題、ものの考え方は十分今も通じるどころか、今まさに知っておくべき情報に満ちている。個人的には巨大企業の経済活動にはあまり興味はなかったのだけど、アップル・グーグル・アマゾンのいずれもがタックスヘイブンなどを絡めた脱税ぎりぎりの節税をしてて、EUなどに怒られてたっていう話は大変面白かった。本書の最後の章に出てくる。なにその、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ って。スタバのメニューかなんか?

 ともかく上から目線抜きでおすすめ。

 「本書を読む意義」めいたところは著者のあとがきに代弁していただこう。

 

本書のタイトルは、「こうして知財は炎上する」という、少し「煽り」の入ったものとなっています。最近の傾向として、知的財産権に関する事件が起こると、法的には問題なくても「炎上」する事例が増えています。一般の方々に、感情に流されてヒステリックに騒ぎ立てないための「知財リテラシー」を身に付けてもらうことも、本書に込めた私の願いです。

 

こつこつ。

はてな周りの使い勝手を整頓しています。

ブックマークとか全然使えてなかったけど、これもかなり有用そう。そういうの全てTwitterに投げていたけど、ここなら流れていかずに何度も読み返せるじゃん。

コメントもつけられる。

 

ブログはこの通り。いろんなところに行った記録を書こうと思ってるのですが、ついつい真面目に準備しようとか考えちゃいますね。

もっと気軽に行こう。

 

本日は明後日の出張に備えていろいろ買い物をしました。

相手方に渡すお土産をかい、新幹線の切符を買った。ついでに書店に寄ったら久しぶりすぎてめくるめいてしまった 日常に文化がない。

狼狽すぎた挙句に新潮文庫の百冊の雪国を買う。

 

川端康成三島由紀夫の往復書簡の感想もいつか書きたい。いやすぐ書こうよ。

Twitterの不具合

不具合というか、取り沙汰されてるところによるとどうも仕様変更と一時的制限らしい。

そろそろ見限ろうかなと思い始めている。

 

Twitterにはなんでも放り込んでいたので、そういう使い方がはてなにできるかわからないけど、とりあえず面白そうな文春の記事を見つけたので貼ります。

https://bunshun.jp/articles/-/63973?page=1

 

いま、龍が如くオンラインをやってるので、こういう話には耳が動いてしまう。

裁判所にわかんないとこ聞くとか…そうか、一般市民よりも近いところにいるのか…。

 

あと、ランニングは今日も完了。

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まだまだ暑さは本番ではない。夕方くらいなら全然走れる。怪我なく楽しくね。

 

 

しばらくはてなにいます。

甲子園歴史館

 先日、球場巡りの記事を書いた。阪神甲子園球場に行って、雨の中ビジター・ベイスターズを応援した顛末である。

 

lubudat.hatenablog.com

 観戦は13日、翌14日はせっかくだから球場の隣にある「甲子園歴史館」に行くことにした。

 デイ・ゲームならばつめつめのスケジュールで東京にとんぼがえりすることもまあ不可能ではないのだが、大阪に2日かけた理由はここであったのだ。

 単に、野球に関する博物館を見ましょうねえ、というのではない。目的があった。

 甲子園歴史館ではスタジアムツアーというのをやっている。公式サイトにも大きくバナーが出ているので調べたことがあれば、見たことがあるかもしれない。

https://koshien-rekishikan.hanshin.co.jp/stadium_tour/

 

 今回の球場巡りには、この甲子園歴史館と、会場が甲子園に移る前の高校野球の舞台でもあった鳴尾球場跡なども探そうと思っていたが(阪神2軍の本拠地・阪神鳴尾浜球場とは別の場所だが、同じ武庫川近く・鳴尾近辺にあるそうである)、この「歴史館」を回って精一杯だろうということで今回は見合わせた。あと、本当なら甲子園素戔嗚神社にもいきたかった。野球場の隣にある神社なんていってみたいに決まっている。

 とはいえ時間は有限である。今回は歴史館一本に絞った。このスタジアムツアーに参加したいがためである。

 ちなみに、本ツアーは4つのコースがある。

 ・スタジアム見学コース

 ・タイガースコース(スタジアム見学つき)

 ・タイガースコース(OB解説付き)

 ・タイガースコース(練習見学のみ)

 だんだんデラックスになるのかと思ったらお値段は一律2000円で、開催時間や日取りによって内容が変わるだけなんだよね。阪神タイガースのこれもまたファンサービスだとすれば、なんて手厚いのだ。昔追いかけていた選手に再会できるかもしれないし、子供がこの稀有な体験から何かに気づくこともあるだろう。ここからファンになる人だって、いるかもしれない。

 私がぜひ参加したかったのは、「OB解説付き」。日曜日の10時からのコース。OBとはいえプロの世界でみっちりやってきた選手の話が聞けることなんてそうそうない。参加しない手はないではないか。

 

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 虎軍の選手には詳しくないし、ともかくきっと、解説付きコースなんてめちゃ人気だろう、と思ったので、チケット予約ができるようになったら即申し込んだ。25日前から予約が始まるのだが、当月にならないと、どの日に誰が来るのかはわからない。地元の人なら発表まで待ってチケットを取っても良さそうだが、遠征組の我々としては日程優先で決めた。どなたがいらっしゃってもよかったのだが、運が良かったね。我々の回は岩田稔投手が来てくださった。

 

 大阪桐蔭野球部→関西大学阪神タイガースという虎戦士中の虎戦士じゃないか、と思ったが、本書によれば実は子供の頃は巨人ファンだったそうである(ご出身は大阪だそうで、そんなこともあるんだねえ、とおもった)

 高校時代に1型糖尿病に罹患、インスリン注射の手放せない体を抱えながら、厳しいアスリートの世界で現役をやり通すという志の高さ、爽やかなマスク、本書とこれの前、現役時代に書かれた「やらな、しゃーない!」ではご自身の投球技術に関しては謙虚な評価をされているが、その人柄込みでファンは相当多かったのではなかろうか。イチローが出場者したWBCで代表入りもしている(引退試合もなさったということで、ファン人気のみならず、球団としてもその貢献を評価している、のだと思う。プロ野球選手は技術が全てだという人もいるのかもしれないが、球団のブランドを高めるのは別に技術だけではない)。

 アスリートというのは30代か、遅くとも40代の前半で一度「死」ななきゃならない。つまり、別の人生を選ぶべき時が来る。一部の、後身の指導や解説者などに転身する人を除いて、今までのキャリアをほとんど捨てて未経験の地に飛び込まなきゃいけない瞬間がくる。そういった意味では普通の人の倍の人生経験を積んでいる、ともいえる。記憶を持ったままの輪廻転生。引退後に書かれた本書を読んでまず私はそう思った。そんな、「もう人生ひとまわり終わった」人物のお話を聞けるのである。野球の話でなくても貴重ではないか。

 というわけで、偉い僧正のお話でも聞くような気持ちで、著書2冊を読んでから挑んだ。

 朝9時半ごろには、スタジアムツアー(OB解説つき)の行列が並び出していた。私はそういうのの場合は「ぜったい並ぶから」と早めに行くことにしている。常連らしき男性が、「ならんどいたほうが、ええで」と声をかけてくれたので、もっとぶらぶらしたそうなお友達も納得して並んでくれた。実際、参加人数定員50名ほぼ満員。時間10分前になると、球場スタッフの女性が2名現れ、50人をぞろぞろとまだシャッターのおりている球場の中に導いてくれる。

 途中までは普通でも入れる場所を巡っていく。一階の売店ゾーンを抜け、二階の廊下あたりでブルペンに通じる窓のシャッターが開かれた。日曜日のデイ・ゲームのために、すでにベイスターズの選手が2名、入っていらっしゃった。一人が推しの桑原さんだったのでおー! とかぶりつく。ブルペンだからと言って投手専用ではないのか。

 甲子園球場がもともとは多目的運動施設であることは前の日記にも書いたが、ブルペンルームは実は昔プールだったそうだ。プールだった時代は大正時代から昭和初期あたりだろうか。ずいぶんハイカラな施設があったものである。

 その後、「関係者立ち入り禁止」エリアへ。関係者用出入り口や、守衛さん詰所の前などを通り過ぎ(記者らしき人が立ち話をしていた)グラウンドへ通じる扉と、通路がある廊下を過ぎると、選手がインタビューの際に背負うロゴマークがタイルになったスクリーンが貼られる壁前で再び立ち止まった。普段はなんの特徴もない白壁の天井にスクリーンが設てあって、紐を引っ張って下ろしてくると「あれ」が出てくるんである。案内人の女性の持って行き方もお上手で、ロゴマークスクリーンがしずしずと下がってきた瞬間、50名が声をそろえて「おー」という。私も言った。

 そこで、満を辞しての岩田氏の登場となるわけですよ。

 みんなで、普段は選手たちが立つ例のアレの前で順番に一緒に写真撮らしてもらった。このフォトセッションもつい最近(5月14日時点)再開されたばかりだったらしいので、これまた運が良かった。「消えそうで消えないペン」を掲げて写真に写った。岩田さんからなんかお声をかけて頂いたみたいだが、テンパっててなんていってもらったか覚えてない。

 その後、50人はゾロゾロとスタンドへ。ひろくてふかふかの、普段の観戦ではまず絶対押さえられない特等席で、10分ほど岩田氏の話を伺った。

インタビュアーとして、スタジアムDJの男性が阪神のユニフォームをトップスにまとって登場する。そういうお仕事もするんだ。

お話中頑張ってメモをまとめたので、そこを見ながら記憶を再現する。細部やニュアンスは間違っているかもしれない。

 

Q:今日はバッティング練習してる選手がいないですね。雨のほうはそれほど降っていないようですが。

A:試合のコンディションのために(グラウンドの、か選手の、かはわからなかった)、こういう日はバッティング練習は室内でやります。雨が降った後の甲子園は嫌なんですよね。日が照って、乾いてくると違うんですけど…

 

Q:デーゲームの時はどんなスケジュールですか?

A:先発投手の場合は、10時には練習が始まります。まずはスタートダッシュで体調を確認したあと、キャッチボールですね。キャッチボールの相手は大体決まっていたり、その日なんとなく決まったり。

(いつも同じ人とキャッチボールする選手もいるんだ…なんかかわいいな)

 

Q:試合前はどんなことを考えているんですか?

A:先発の時は、「今日も勝ちたいな、相手は誰かな」みたいなことを考えていました。僕がプロにいた頃は予告先発制ではなかったので、相手チームを騙すためにあえて別の練習をしてみたりね。そういうときはランニングが減るので内心ラッキーと思ってました。

(やっぱ練習はどんな選手でも嫌いなもんですよね)

 

Q:今年の阪神はどうでしょう?

A:今年は強いです。岡田監督になってから、守備の意識が変わったと思う。野球というのは、守備7、攻撃3です。打率というのはどう頑張っても三割ぐらいでしょう。

(これは著作でもおっしゃっていたような。ピッチャーの自負を感じます)

 現役ピッチャーについてちょっと厳しい評価の話があったような気がするが、ここは私がちゃんと聞き取れているか自信ないので割愛。

 

Q:注目の選手は?(前の聞き取れなかったところの流れから、左のピッチャーの話題だったかも)

A:大竹(耕太郎)投手は頼もしい左ピッチャーです。左の先発陣は少ないので。あと、岩貞(優)投手。

(彼も左腕だ)

 

Q:岡田監督はどんな方ですか?

A:報道でもよく言われているけど、選手ととにかく話さない! 僕も現役時代、子供が生まれる日に早引きさせてもらった時にちょっと話したぐらいです。

 監督の思惑は報道などをチェックして推し量る感じですね。

 岡田監督は勝ち方を知っている方です。

 今年は「アレ」するんじゃないですかね。

 

この後、質問コーナーでもいろんなお話が出たが割愛。藤原球児さんと仲良しだよとか。今年はヤクルトが怖いとか。今のところヤクルトは苦戦を強いられているので予言が当たるのはこれからか。村上さんが開眼しないと…。

 中継ぎの場合の心理なんかはとても面白い話だった。中継ぎの場合はいつお呼びがかかるかわからないんだけど、テレビ中継で観戦しながら、出番になりそうかどうか、考えてるそうです。自分の特徴(左投げだとか、そういう)のも考慮に入れつつ、監督の思考を読むんだそうな。プロ野球は紛れもない「仕事」だな、と思った。俺たちはどうだ。上司の気持ちを読んでいるか? 岩田さんはその辺りの心得を藤原さんに習ったそうだ。

 

 その後、ふわふわした気持ちのままツアー終了。バッターたちの姿は見られなかったが貴重な体験だった。

歴史館の展示も一通り見ると、スコアボードのすぐ下(MITSUBISHIの看板のあたり)に出られる通路がある。球場の開場後は入れないエリアなので、行きたい場合は展示を見るのはどうしてもそこそこになるが、行っておいて損はない。すごく特別な気持ちになれる。

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阪神ファンでなくても、野球ファンなら行って損はない。できれば解説付きスタジアムツアーに行って、往年の選手の元気な姿を見ておきたい。

 

 

球場巡り:阪神甲子園球場

5月13日、14日と阪神甲子園球場に行って来た。今年は気が向いたら球場に足を運んでみよう、というテーマを作った。直接のきっかけはいわば社交である。飲み会の席でつい、口を滑らせて「自カプ野球アンソロ作ろうぜー!」と言ってしまった。それまで野球にはそれほど詳しくなかったのだが、ジャンルのお友達に野球に詳しい人がいたのである。もともとネットミームに誰が言い出したか「野球回のある漫画は名作」というものもある。呪術廻戦にもあるし、あ〜るくんにもある。

「野球アンソロ」発言にいたる伏線は他にもあって、中川右介プロ野球『経営』全史」という本が大変面白かったのだ。

https://lubudat.hatenablog.com/entry/2022/09/02/223516

 

 甲子園球場の起工式は一九二四年三月一一日、夏の第一〇回大会に間に合わせるため、突貫工事で八月一日に完成した。当初は一〇〇万円の予算だったが、急がせたこともあり二五〇万円かかった。一九二四年は干支では「甲子」だったので「甲子園大運動場」と名付けられた。

 敷地総面積五万四〇〇〇平方メートル、五〇段の座席を有する鉄筋コンクリート造のメインスタンドと、外野には二〇段の木造スタンドを設け、六万人の観客席を備えた。(中川右介 プロ野球「経営」全史 2021年)

こういう外部のご縁が、思わぬ興味の拡大につながることもあるんですわ。アンソロの原稿を書くために本書をまたパラパラと読み、足りない知識はネットとか、また新たに買った本などで補った。

 

横浜ベイスターズの協力のもとに、絵本作家いわた慎二郎が書き下ろしたこの本とか、主要な施設とか そもそも選手たちが何時頃に「出社」するのかなどの基本的なことを知るのに役立った。

 

野球場の1日

そんな伏線を経て野球アンソロを脱稿、なんやかんやあったもののちょうどWBCたけなわのころのイベントで頒布した。売れ行きは描き手程の盛況とはいかなかったが、大変喜んでくださった方もいて、やって良かったと思っている。

その最中に、あのWBCですよ。

爽やかなスポーツマンシップ

「ぐう聖」栗山監督以下、錚々たる、信頼できすぎるコーチ陣。

大谷選手はじめとする、人間ができすぎている選手たち。

(その後スキャンダルが報道されてしまった山川穂高さんについてはほんとに残念である。きみさー、ほんとに報道されたようなことがあったのにあのファーストであんなにこにこしてたの?? 肝太すぎない?)

 ラーズ・ヌートバーとオータニサンのスキャンダルだけは一生聞きたくないからな。

それはそれとして。

野球という競技について大いに目を開かされたせめてものご恩返しとして、多分宇宙一(宇宙のどこかに野球星というものがあるのかもしれないけど)野球を愛する人類の一人であろうオータニサンがお好きなものを、わたしも少しは勉強してみたい、と今年は球場巡りをするぞ、と思ったのが3月くらいである。

その後、スケジュールの手配などをして、まずは日本で最も古いという球場、甲子園をかわきりにするのがよかろうと、友達を誘って大阪行きを決めた(その後お誘いなどいただいて、今年初めはハマスタになったわけだが)。

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もともとは多目的運動施設として発足したそうで、屋内プールや修道館的な施設などもあったそうである。この、蔦の生えた外観の威容。報道ではみたことあるけど、肉眼では初めてみた。

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これは駅からのエントランスである。石畳の広場が詰め掛けるファンを受け止めている。この、駅前の広場だけでもいくつものタイガースショップがあり、出店も出ており、飽きさせない。12時にもなればショップ「アルプス」前は長蛇の列である。

 この球場前広場には「タイガーズショップ アルプス」と「ファンショップ ダグアウト」があり、いずれも阪神グッズで溢れている。アルプスの方が人の入りはすごい。限定グッズやユニフォーム、帽子が充実している。一方の「ダグアウト」のほうも「アルプス」より小体ではあるが人がひしめいている。

 なお、駅前のローソンにもグッズコーナーが大々的に設けられており、「あ 応援グッズ忘れた!」となってもその場で購入できるという親切設計。

 この日は雨模様だったが、客席に入る頃はまだ曇っていた。ご飯を食べる時間を考えて…とか言っていたけど外のショップはどこも人が満載である。中でお弁当買うことになった。

 私が買ったのは「湯浅のキュートなおむすび弁当」。

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www.hanshin.co.jp

リンク貼ってみたが、来年には無くなっちゃうページだと思うので、説明書きから少し引用しよう。

 

湯浅選手のボールをこねるしぐさから着想を得たおむすび弁当! 肉巻き&海苔巻きおむすび、えび天、玉子焼き、なすびのお浸しと湯浅選手の好物を小ぶりな容器に盛り付けて「キュートな」見た目に仕上げました!

とある。

 湯浅選手、なすびのおひたし好きなの。渋いな。

 他の選手のものは大体、「選手も大満足」しそうな感じの大盛り弁当だったので、これなら他の球場グルメも食べられそうだな、と思った。

 他にも、イカ焼きだの、長いフライドポテトだのを買って、席に着く。

 席はチケットを抑えるのが遅すぎたせいか外野の上段の方。それでも案外、グランドはよく見えた。ただし…なんと「ビジター応援席」!そういえば階段状の席を登っていくときに、前の方に座ってる人の足元に見えたんだよな。楽器のケースが。

 吹奏楽部だったのでケース見りゃ何が入ってるのかわかんのよ。

 

 せっかくなので久しぶりに会う阪神ファンのお友達と一緒に観戦しよう…と思っていたのに何たる不覚。お友達は黄色いユニフォームを封印されてしまいました。

 試合はちなみに、横浜阪神戦だった。

 

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この四面楚歌ぶり。

甲子園でビジターで投げるのがめちゃくちゃプレッシャーである、と言っていたのはグラゼニのナッツ投手であったかと思うが、さも、という声援。

まだ5月なのでお互い切羽詰まる時期ではないと思うので 本気の阪神ファンはもっとこう、さらに、すごいんだと思う。

 

 というわけで、攻撃のたびに起立と声出しが必須となった。そのうち雨はぽつぽつ降り出してくる。急遽買ってきた真っ黒いかっぱを着込んだが、たったりすわったりするたびにかっぱに溜まった水が垂れてくる。寒い。ビールでも傾けながらまったりのつもりがぜんぜんになってしまう。

 ただ、——声出し応援というのを初めてやってみて、七回ぐらいからふしぎな気持ちになってくる。我々が、各ベース上でぐっとしゃがみ込んで虎視眈々と(ハマの星たちもまた、虎の目をしている。甲子園なだけに——)盗塁の機会を狙う。あるいは四角い白線の内側で投手の「隙」を盗もうと睨みつける——その「彼ら」を本当に「気で押して」いるような気持ちになってくる。応援は音頭を取る人、旗を振り回す人(畳一畳分以上もあろうかというようなすてきな青い応援旗である)誰に対して「ホームランを要求するか」などはリーダーが決める。応援歌は攻撃回中、雨に濡れているであろうラッパが叫び続けている。即席で覚えた九人の人々の名前を無心で叫ぶ。その背中がすこし大きく見えた。

 結局試合は負けてしまった。今年の阪神は強い。さすが名将・OKADAである。AREをまじで狙うかもわからんね。

 

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 しかしながら多分、ここでもらっちまったんだよな、コロナをよ。マスクなしの声出し応援は、ワクチン四回以上、体調万全で挑まれたしである。

 虎ファンのお友達には気の毒した。

 その後はミナミに移動して、ディープな焼き鳥屋で飲んだ。

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新型コロナについて

せっかく(!?)新型コロナに罹ったので、備忘録をつけておくことにした。

以下、時系列で症状と患者自身の所見である。お医者さんのコメントは聞いた範囲で書く。

 

・5月15日(月)

 13・14日と大阪に行って、雨の中横浜阪神戦を見たので、その疲れかなとおもう程度の倦怠感があった。でも、朝はスッと起きた。雨模様だったので、通勤は電車だったと思う。

 午前中はまあ普通に「土日どっちも休まないで出社つれえなー」程度の気持ちで仕事をしていた。午後から長尺の会議があり、それがどうにも辛い。だいたい会議の内容も辛いのである。「いい加減作業フェーズにうつりましょうよ」みたいなことを言ったら、なんか上司に「何をやるっていうんだ?」とか言われてがっくりくる。結局こいつがうんと言わなきゃ何一つ話は進まない。そのくせに「どっちがうん」かは全然示唆しない。なんなんだ。っていうかマジで、後々でひいひい言いながらデータ集めたりするのはいやなんだよ いやなんですけど? いまやれることやろうよ。

 もう身バレもあったもんじゃない。ばれるならばれろ。辛い。席に戻って考えうる限りの「いまできること」を考えていたらなんだかどんどんだるくなってくる。心因性だと思っていたが、さすがに20年間似たような感じで転がされているので訳が違う。これぐらいでへこたれるわけはない。10年ほど前に帯状疱疹やった時も精神は割とぴんぴんしていた。あれよりはぜんぜん辛くないし。なんだろうね。と思って帰宅。定時まで仕事してやった。

 家に帰って熱を測ってみても平熱だったんだよね。「自律神経失調症か?」と思いながらゴロゴロしてた。

 

5月16日(火)

・翌朝5時ごろめを覚まして熱を測ってみたら、37.6とかだった。なんかちょうど、0.1度ほど規定の範囲を超えている。やっぱまずいのか、単なる風邪か、はっきりしなかったので、病院が開く9時半を待って電話(受付時間は9時って書いてあるのに、9時に電話してもつながらなかった)。「発熱外来」を予約して、時間になってから行く。それまでに寝ついてしまうとまずい、と思って、時間を見越しながら一時間ほど二度寝した後で服を着替えたり、メイクをしたりして少し早めに病院へ。

 早めに着いちゃったのだが、「発熱外来です」というと「申し訳ないが外で待っていろ」と言われたので方々を散歩した。思えばコロナの患者が熱を出したまま(マスクはしているとはいえ)うろうろしていたわけである。5類以降後だからなのかなんなのか、緩いというかなんというか。まあ多分誰にもうつしてない。いま誰かに接近されたらそいつも道連れだ。幸い火曜日の朝なので人通りは少なめだったが、都会のことでそれでもゼロというわけではなかった。

 診断はほぼ問診と、例の「抗原検査」である。私が受けた検査は痛くも痒くもなかったし、そもそも検査用の綿棒みたいなやつが細かった。人によっては血が出るとか痛いとか言われていたが、恐るるに足りない。

 診断待ちの時間で松本清張「日本の黒い霧」上巻を読んでいたが、案の定というか、内容はあまり頭に入らなかった。

 診断結果は「陽性」一応、検査キットの表示とか見せてもらったけどなにがなにやら。前に診断されていたひとも「くっきり陽性ですね」と言われて「あらー」とか言っていたが、私も特段感慨はなかった。

 そうなってくるとともあれ薬局で処方された薬をもらってきて、飲んで寝るしかない。その前に週末のいろんな予定がある方々へ電話。一件連絡を忘れたりする。

 この日は兎も角も寝て、ご飯食べて寝て、というつもりでいたが、あまりだるさもなく元気だったので、また少し本を読んでみたり、やっぱやめて寝るべきか、と寝てみたり。昼ごはんもペペロンチーノとか食べて案外元気だった。

 

5月17日(水)

 どうやら東京は30度越えぐらいのえらく暑い日だったらしいが、そういう記憶はない。兎も角寒くて布団かぶって寝ていた。この日あたりから熱も少し上がってくるが、温度だけで言えばせいぜいが37.7とか8程度である。食べ物を食べるのが兎も角もだるいので、食べる一時間ほど前に頓服を飲んでせめて熱を下げよう、というオペレーションに決定。この日は割と忠実に守る。

 熱がそれほど高いわけでもないが、暑さは全然感じない。寒気があったのだろう。頭やのどもそれほど痛くないし、咳も出ない。ただ、だるい。症状といえばそれぐらいである。多少、関節痛らしい鈍痛がなくもないが、そんなんだったらインフルエンザの方が辛いと思う。なったことはないけど。

 そうだ。記憶の限りではインフルエンザにもなったこともないのにこの私が発熱など異常なのである。うすうす、新型コロナじゃないかと思ってたよ。そのうち寝転んでいるのもだるくなってきたので枕を少し高くして、座ってるんだか寝てるんだかわからないぐらいの格好でうつらうつらしていた。いや寝たり起きたりはしていたのだろうけど、何しろ何もできないので、時間の間隔は曖昧である。多分一番、「溶けていった」日だ。

 毎日日記を紙で書いているのだが、さすがにこの日と、18日は書かなかった。書いても書くことないし。

 あさ:野菜スープ(卵が落としてある)、ご飯、瓶詰めの高菜炒め

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 ひる:梅がゆ、瓶詰め高菜炒め、ロコケア

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 よる:卵かゆ、ウィダーインゼリーロイヤルゼリー配合(賞味期限が切れてた)

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5月18日(木)

 罹患3日め? 17日と同じくあまり記憶がない。頓服なしで平熱を記録して喜んでいたようなことが(Twitterに)書いてある。

 この時点ではまだツナ缶うまそうとか思っているんですよ。ただ、食欲はそれほどないし調理をするほど元気ではない。うどんにツナ缶と小ネギをかけて、ポン酢かけたものなどを食べていた。

 ただ、「着替えようかな」と書いては具合悪くなってまたごろりと横になる、などといったことを繰り返している。三度三度のご飯はなんとなく食べている。

 夕方ごろ発熱38度台を記録。こりゃまずい、と思う。ほんとうに5日の隔離で治るのか?

 あさ:押し麦粥、瓶詰めの高菜炒め、プロテインドリンク(ソイプロテイン低脂肪乳で解いたもの)、きゅうりに胡麻ドレッシングをかけたもの

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 ひる:冷凍うどん、ツナ缶、ネギ、ポン酢

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 よる:木綿豆腐、梅粥、ウィダーインマルチビタミン

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 ご飯だけ見ると重篤である。

 

 5月19日(金)

 熱は緩やかに下がっているが、身体的には割としんどかった。あまり記憶がないが、Twitterなんか見ていると17日よりはましになっている(つぶやきが増えているのが証左である)。本当にしんどい時はTwitter上でおもしろそうな揉め事があってもスルーしてしまうもんだ、と思った。人間くだらない事件を楽しむのですら、ある程度体力がいる。

 あさ:小松菜に胡麻ドレッシングをかけたもの、ウィダーインマルチビタミンプロテインドリンク。

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 ひる:冷凍うどん、きゅうり、ささみ。

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 よる:木綿豆腐、ネギ、キャベツ、ささみを甘辛いタレで肉どうふにしたもの。

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 後半、料理をしようとしているのがわかるので、多少元気になっているのだろう、と思われるが、この頃から匂いが急にわからなくなる。具体的にいうと、夜ご飯あたりから嗅覚がぱったりと無くなった。

 

 この、嗅覚がなくなる感覚、目や耳だともっと具体的に「見えない」「聞こえない」がわかるのだろうが、嗅覚の場合は「匂いがしない」というのは全くはっきりしない。石鹸なんかを鼻に持っていって、クンクン嗅いでも本当になんの匂いもしなくなってから、「おお」と思うという程度。喉の奥というか、鼻の奥というかがずっと膿んでいて、じくじくと嫌な匂いのようなものがし続けているので、「他の匂いがわからなくなった」という感覚はあまりなかった。もっと、「健常であるのに鼻が効かない」みたいな感じを想像していたので少しがっかりする。自分の鼻の奥に病気の匂いがあって、それはわかるので、「匂いが全く消え果てた」という感じはない。ただ、具体的な匂いがわからなくなるだけである。

 こうなってくると何をつくって食べてもあまり楽しくない。美味しくないことはないが、楽しくないのである。人間というのは勝手なものである。

 調理が楽しくないと凝ろうという気持ちも出てこないため、晩御飯は適当極まりない一緒くたに全部煮た的なものを作った。それでも台所に立つ元気はあったようである。

 

5月20日

 隔離期間最終日、熱はほぼ平熱。昨日より頓服から卒業している(ので、処方された頓服は少し残った。もう当分、もしかすると10年ぐらいは熱を出さずに生きていくのではないか、と思われるので、この頓服たちは処方損だ。かわいそうに)。

 ところで頓服の名前が「マルイシ」というので、ずっと「よろしくな、マルイシ」などと声をかけていた。あの丸い白石くんを呼ぶときにそう呼んでいるので、親しみが湧く。そんな薬をみすみす捨てるのは忍びない。薬局方でも「薬の返却ができるようになればいいのに」みたいな話をどこかで聞いたことがある。今のところはできないらしい。たとえ返しても、薬剤師さんに捨てられるだけだ。

 

 この日1日はどうやら平熱で過ごせたらしい。昼頃、すこし怪しいことはあったが、概ね平気。朝から元気にご飯を食べるが、匂いは依然しないのである。

 

 あさ:めだまやき、キャベツの千切り、オートミール低脂肪乳

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 ひる:ツナさらだとカニカマコーン巻き、春雨サラダ、いもむしぱん(以上ファミマ)

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 よる:ささみとキャベツの炒め物、白いご飯、お味噌汁、チーズ

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 相変わらず匂いはしないのだが、昼のサラダ巻きと春雨サラダを食べたときに、一瞬匂いがしたような気がした。ごま油と、酢飯の匂い。

 

5月21日

 以前から約束していたお友達とコンサートへ。クラシックコンサートなので黙って聞いているだけなので良かろうと。咳もそれほど出なかった。

 相変わらず匂いはしない。昼ごはんにはパニーニを食べた。パニーニって昔々流行って滅びたと思っていたが、食べられるところではまだ食べられるんですね。ベニエとかは絶滅したのに。ベニエってなんだよう、という向きにははてなキーワードリンクが答えてくれるだろう、と思うのでわざわざ言及はしない。穴の開いてないドーナツみたいなやっちゃ。

 あさ:なし

 ひる:パニーニ(チーズとハム)、コーヒー。コーヒーはただの苦い液体である。

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 よる:ししゃも3匹、常夜鍋、ご飯、水菜ともやしの和物。

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 22日からはほぼ通常と同じ生活(仕事含め!)に戻っているので言及はしないが、しつこい咳が残っている。5分に一度ほど、気管支あたりがむずむずし出して、ちょっと咳き込む。鼻水のようなものがそのあたりまで流れているような感覚。これ、なんとかならんもんですかね。

 咳に対して処方された薬は23日ごろに飲み切ってしまった。吸引する薬がまだ10日分ほど残っているので、毎日それをやっているが、こちらのほうはどうも「治っている」らしい感じがない。

 なお28日現在、ニオイの方はほぼ復活している。コーヒーだけよくわからん。実は先週から会社でもコーヒーばかり飲んでいるのだが、どうも匂いがよくわからないせいであまり美味しくない。美味しくないのに飲んでいるのは、もう中毒としか言いようがない。

 

 お酒大好きなのに、飲みたいと思えなくなってしまったのもきつかった。昨日、冷えたビールを飲んでみたが、こちらはまだ、本調子ではない。あまり美味しくなかった。

 

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追記:よく言われる「5類になってからの治療代」について。

 あれこれいうても保険適応なんで…

 診察・検査:3000円弱

 くすり:頓服と肺の薬を出してもらって670円

 ま、普通の風邪くらいのもんである。抗原検査に多少お金は払ったのかもしれないが。

 まだコロナは特効薬がないそうで、特別な薬はもらっていない。

 正直、上記なんかよりも花粉症の治療の方が金がかかる。

 植林を多少伐採するそうだが、それはちょっとひどい話だ、とも思う。

 すぎからしてみればなんだよというところだろう。

読書感想:橋本治 黄金夜界

何も知らないで読めば、富裕層の男女のすったもんだを描いたソープオペラ的な小説である。際立ったところといえばその文体ぐらいなもので、全知全能の三人称らしき、冷めた、主観はすべて「登場人物に任せた」感じがブレずに徹底されている点ぐらいか。知らないで読めばそういう作品だが、本作は「金色夜叉」の二次創作である。そういう前提に立つと、「なんでまた」という点が「まあ原作あるしな」になる。

 とかいって私は「金色夜叉」を読んだことがないのである。原作にあたる前に二次創作を読むのは同人界隈ではマナー違反にあたり、はしたない行為と見なされる。貫一お宮についても特段の思い入れはない。橋本治が好きだから買って読んだ、という作家買いである。同人作品でもごくたまに作家買いをすることがある。10年ほど前は原作は知らないのに同人誌のあまりの勢いの良さに同人誌だけを買ってしまったこともある。しかし同人誌というのは原作がなければ面白さは半減するように書かれている。実際そういう作品も一読以上には至らないことがおおい。同人界の掟はまもるべきである。

 同人というのはやっかいで、たとえ「読んだことのある」作品でも自分の宗旨とはずれたカップリングの本をむやみに買うな、という掟も存在するようである。こちらの方は「キャラがわかってりゃいいじゃん」と思わなくもないが、そうやって勝手に買った挙句に「あーたの主張するA×Bというカップリングは邪道だと思う」だのといった余計なことを作家に申し上げる輩がいる。いるせいで宗旨違いを買うこと自体が異端視されるというやっかいなことになっている。単純にあの作家の書くものはいいから多少あれでも買う、でもいいだろう。よくないか。まあ黙ってればなんだっていい。

 そこは、橋本治である。「金色夜叉」未読でも楽しめる。血のつながらない「兄妹」の「間違い」を前提にした恋愛物語。第一部では二人が結ばれるまで、第二部では「妹」の裏切りと「兄」の異世界転落、そして復活、第三部ではそうして成り上がった「兄」と「妹」の再会——と、まるでマジ、平成末期から令和にかけて隆盛を極めたライトノベルにもよく見るプロット満載で、ワクワクしてしまうのである。そういえば、「金色夜叉」も大ヒットノベルだったわけで、舞台化、映像化、イメソン、他メディア展開の元祖である。銅像まで立っている。いまならフィギュアやぬいがめちゃ売れる。

 二次創作とはいえ、舞台こそ現代に移し替えられ、貫一もお宮も今らしい立場を獲得しているが、——男の方はまあそんなに変わっていないのに、女の方はだいぶん隔世の感がある。20世紀とは女性が権利を獲得していった100年なのだなあ(そしてその戦いはどうやらまだ終わってはいない)と、思ってしまう——秀才貫一青年は「みいさんこれきり」という代わりに赤羽のブラックな居酒屋でがむしゃらに働き、そこのヤクザまがいの経営者に認められて頭角を表してゆく。このくだりはなんか龍が如くの1エピソードにぴったりでもある。

 尾崎紅葉は亡くなって先を書けなかったが、橋本治は存命中に本作に決着をつけてくれた。結末はもうね、「そうするしかないよね」というラストなんだけれども、その道具立て、立会人、舞台、いずれも橋本は「世紀の悲恋の二人」にしてはいささかださめのものをあてがっている。それも込みでの「読解」なのだろうと思われる。「金色夜叉」にはロマンティシズムがあるけれども、本作にはそんなにない。せいぜいが月9程度のあれである。100年かけて日本人が失ったのはロマンなんじゃなかろうか、というほどつまんないものをわざわざ持ってくる。本作の上流階級にそれほど憧れが抱けないのも、多分大方の読者の感覚だろうと思われる。大富豪ってメ●カリとかゾ●タウンとか・・・? いくらなんでも冷ややかすぎやしないだろうか。橋本治ともあろう人が無自覚にやっているとは思えないので、多分わざとだろう。

 それでもいろんなところに「今の一流階級ってこんなかんじなんだー」というのがリアリティとともに刻まれていて面白い。みいさんが旦那とどっかいく時に「服を決めなきゃいかんから一ヶ月ぐらい前にいえ」とか言い出すところとかめちゃいい。安普請の大家さんの、背中に変なプリントしてあるジャケットに貫一があきれるところとかもいい。我々庶民はそういうところからすでに道を踏み外しているわけだ。しまむらで「I LOVE JAPAN」とか書いてあるスカジャン買ってる場合じゃない。

 この乱文が感想かどうか、だんだんわからなくなってきたが、少なくとも私は本作読了後にどっぷりと、「黄金夜界」の世界に浸かり込んだことは確かだ。草鞋メンチどうすんだよ貫一。ふざけんじゃねーぞ。バイトくん困ってるじゃないか。おい! なあ、おい!!