日月星辰ブログ

Vive hodie.

映画ゴールデンカムイ 感想

えー漫画の実写化かー どうしようかな…

 

とか言ってる人は見ておくべき。たった2000円で120分超の興奮を買えるのだ。

 

以下ネタバレ。

 

 

 

とりあえず初見の感想を、他の人の感想で上書きされる前に書いてしまおう。もういい書こう書こう。

 

冒頭のシーンが偶然にも、「首」の死屍累々と重なった。一体あの戦争で何人が死んだのか、一応の「勝利者」とやらにどれだけの命が犠牲になったのか、をナレーションと絵でわからせてくる。とらじとのエピソードも効果的に使われることで「割りを食った一般兵士の声なき怒り」は、原作よりも濃厚に書かれていた気がする。

そうだ。映画で濃厚に感じたのは悲しみや怒りの匂いである。杉元の体には無数の傷があるが、それらはとっくに治ってるのに、山崎賢人さんの演じる杉元はまだ深傷を負った心の傷が癒えてない感じがほんの一瞬の眼差しからすら感じられる。原作でもさまざまな角度から描かれる要素ではあるのだが、それ以上にからりと明るくてまっすぐな野田先生の線に読者はいとも簡単に懐柔されるのである。裏に隠れた怒りや悲しみ見たいな湿った感情は見てみぬふりをさせてもらえる。

映画ではそこは実写だからなのか、抜きでは語れんし多少見た人が拒絶してもわからせる!と言う気迫を感じた。ある意味、負の感情を語ると多少説教くさくもなるので、個人の著作物性が濃いまんがよりも、そう言うのは映画の得意なのかも知れない。

アシリパも杉元もどことなくやるせなくて、寂しそうで、傷ついてる。そこが良い。二人が通じ合って、相棒になる心の流れもよくわかる。

矢本さんの白石由竹の演技も良かった。ぽんぽんテンポが良く、軽薄で、いい加減で、小悪党である。どんどんいい子になってゆく原作の由竹がともすれば捨ててしまった太々しさと逞しさがある。小柄な矢本さんが生き生きと弾け回ってるのをみるとニコニコしてしまう。遊郭の品定めのシーンなんて普通にやってたら少々漫画的に過ぎて変だが、すごく自然だった。あのシーンがあるからデカブツのいる店は安めで、牛山が行ってた店はお高いと言うことまでわかる。

それで言うと、演出や監督、多分脚本などの整理のされ方もすごく洗練されていた。大体ああ言う作品って底に合わせてわかりやすく作ろうとするが、大胆な説明のカット、セリフの節約とマキ、と思えば貯めるとこは貯めて迫力や余韻を出す なんというか、作中のテンポ感にまどろこしさとか逆に忙しなさとか全然感じなかった。すごい。逆に白石が杉元が逃げてった後の兵舎で何してたかとかは原作よりも描写が丁寧でなるほどとなれる。アイヌのコタンのシーンなんかも、ああ、こう言う村はあるな、って思える上に情緒的で大好き。夕暮れ時に響く、子どもたちの声や、母親が家族を呼ぶ声。言葉は違うがあれは見たことあるわ。私が小さい頃の私の街だよあれ。溢れるノスタルジーサウダージ

 杉元を追ってきた造反組がクマに襲われるシーンを、ヒグマ穴から覗いてるとこでは、アルフレッドソン監督の映画で見た手法を思い出した。惨劇をあえてヒキで撮ることでより一層不気味さを感じられると言うあれ。一人称的な視点になることで余計に生の恐怖が際立つのだが、「予算と尺の節約ではないか」とお友達に言われてなるほどと思った。惨劇を生々しく作ると大変だから あえて見切れさせると言う。レーティングへの配慮もあると思う。

 推しは白石くんなので、白石くんを見てれば幸せかと思いきや、あの映画みんないいんだわ。完結してから作ってるからこそのいろんな辻褄も気持ちよかった。怪我した尾形が助けられた後、鶴見中尉の手に縋って、そこに文字を書いて伝えるところとか、いい。尾形と鶴見のねっとりとした関係性がもうあそこでわかるんだわ。映画的には病院で書かせるよりも話が早いよねと言うことなんだろうけど、あんなところで尾形が鶴見に甘えてると言うか縋ってると言うか、まあ歪んだ愛を持っているのかを一瞬でわからせてくるの怖すぎる……!

 日比谷のアイマックスレーザーで見たが、正解だった。また何回か行くけど、取り急ぎ。