日月星辰ブログ

Vive hodie.

甲子園歴史館

 先日、球場巡りの記事を書いた。阪神甲子園球場に行って、雨の中ビジター・ベイスターズを応援した顛末である。

 

lubudat.hatenablog.com

 観戦は13日、翌14日はせっかくだから球場の隣にある「甲子園歴史館」に行くことにした。

 デイ・ゲームならばつめつめのスケジュールで東京にとんぼがえりすることもまあ不可能ではないのだが、大阪に2日かけた理由はここであったのだ。

 単に、野球に関する博物館を見ましょうねえ、というのではない。目的があった。

 甲子園歴史館ではスタジアムツアーというのをやっている。公式サイトにも大きくバナーが出ているので調べたことがあれば、見たことがあるかもしれない。

https://koshien-rekishikan.hanshin.co.jp/stadium_tour/

 

 今回の球場巡りには、この甲子園歴史館と、会場が甲子園に移る前の高校野球の舞台でもあった鳴尾球場跡なども探そうと思っていたが(阪神2軍の本拠地・阪神鳴尾浜球場とは別の場所だが、同じ武庫川近く・鳴尾近辺にあるそうである)、この「歴史館」を回って精一杯だろうということで今回は見合わせた。あと、本当なら甲子園素戔嗚神社にもいきたかった。野球場の隣にある神社なんていってみたいに決まっている。

 とはいえ時間は有限である。今回は歴史館一本に絞った。このスタジアムツアーに参加したいがためである。

 ちなみに、本ツアーは4つのコースがある。

 ・スタジアム見学コース

 ・タイガースコース(スタジアム見学つき)

 ・タイガースコース(OB解説付き)

 ・タイガースコース(練習見学のみ)

 だんだんデラックスになるのかと思ったらお値段は一律2000円で、開催時間や日取りによって内容が変わるだけなんだよね。阪神タイガースのこれもまたファンサービスだとすれば、なんて手厚いのだ。昔追いかけていた選手に再会できるかもしれないし、子供がこの稀有な体験から何かに気づくこともあるだろう。ここからファンになる人だって、いるかもしれない。

 私がぜひ参加したかったのは、「OB解説付き」。日曜日の10時からのコース。OBとはいえプロの世界でみっちりやってきた選手の話が聞けることなんてそうそうない。参加しない手はないではないか。

 

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 虎軍の選手には詳しくないし、ともかくきっと、解説付きコースなんてめちゃ人気だろう、と思ったので、チケット予約ができるようになったら即申し込んだ。25日前から予約が始まるのだが、当月にならないと、どの日に誰が来るのかはわからない。地元の人なら発表まで待ってチケットを取っても良さそうだが、遠征組の我々としては日程優先で決めた。どなたがいらっしゃってもよかったのだが、運が良かったね。我々の回は岩田稔投手が来てくださった。

 

 大阪桐蔭野球部→関西大学阪神タイガースという虎戦士中の虎戦士じゃないか、と思ったが、本書によれば実は子供の頃は巨人ファンだったそうである(ご出身は大阪だそうで、そんなこともあるんだねえ、とおもった)

 高校時代に1型糖尿病に罹患、インスリン注射の手放せない体を抱えながら、厳しいアスリートの世界で現役をやり通すという志の高さ、爽やかなマスク、本書とこれの前、現役時代に書かれた「やらな、しゃーない!」ではご自身の投球技術に関しては謙虚な評価をされているが、その人柄込みでファンは相当多かったのではなかろうか。イチローが出場者したWBCで代表入りもしている(引退試合もなさったということで、ファン人気のみならず、球団としてもその貢献を評価している、のだと思う。プロ野球選手は技術が全てだという人もいるのかもしれないが、球団のブランドを高めるのは別に技術だけではない)。

 アスリートというのは30代か、遅くとも40代の前半で一度「死」ななきゃならない。つまり、別の人生を選ぶべき時が来る。一部の、後身の指導や解説者などに転身する人を除いて、今までのキャリアをほとんど捨てて未経験の地に飛び込まなきゃいけない瞬間がくる。そういった意味では普通の人の倍の人生経験を積んでいる、ともいえる。記憶を持ったままの輪廻転生。引退後に書かれた本書を読んでまず私はそう思った。そんな、「もう人生ひとまわり終わった」人物のお話を聞けるのである。野球の話でなくても貴重ではないか。

 というわけで、偉い僧正のお話でも聞くような気持ちで、著書2冊を読んでから挑んだ。

 朝9時半ごろには、スタジアムツアー(OB解説つき)の行列が並び出していた。私はそういうのの場合は「ぜったい並ぶから」と早めに行くことにしている。常連らしき男性が、「ならんどいたほうが、ええで」と声をかけてくれたので、もっとぶらぶらしたそうなお友達も納得して並んでくれた。実際、参加人数定員50名ほぼ満員。時間10分前になると、球場スタッフの女性が2名現れ、50人をぞろぞろとまだシャッターのおりている球場の中に導いてくれる。

 途中までは普通でも入れる場所を巡っていく。一階の売店ゾーンを抜け、二階の廊下あたりでブルペンに通じる窓のシャッターが開かれた。日曜日のデイ・ゲームのために、すでにベイスターズの選手が2名、入っていらっしゃった。一人が推しの桑原さんだったのでおー! とかぶりつく。ブルペンだからと言って投手専用ではないのか。

 甲子園球場がもともとは多目的運動施設であることは前の日記にも書いたが、ブルペンルームは実は昔プールだったそうだ。プールだった時代は大正時代から昭和初期あたりだろうか。ずいぶんハイカラな施設があったものである。

 その後、「関係者立ち入り禁止」エリアへ。関係者用出入り口や、守衛さん詰所の前などを通り過ぎ(記者らしき人が立ち話をしていた)グラウンドへ通じる扉と、通路がある廊下を過ぎると、選手がインタビューの際に背負うロゴマークがタイルになったスクリーンが貼られる壁前で再び立ち止まった。普段はなんの特徴もない白壁の天井にスクリーンが設てあって、紐を引っ張って下ろしてくると「あれ」が出てくるんである。案内人の女性の持って行き方もお上手で、ロゴマークスクリーンがしずしずと下がってきた瞬間、50名が声をそろえて「おー」という。私も言った。

 そこで、満を辞しての岩田氏の登場となるわけですよ。

 みんなで、普段は選手たちが立つ例のアレの前で順番に一緒に写真撮らしてもらった。このフォトセッションもつい最近(5月14日時点)再開されたばかりだったらしいので、これまた運が良かった。「消えそうで消えないペン」を掲げて写真に写った。岩田さんからなんかお声をかけて頂いたみたいだが、テンパっててなんていってもらったか覚えてない。

 その後、50人はゾロゾロとスタンドへ。ひろくてふかふかの、普段の観戦ではまず絶対押さえられない特等席で、10分ほど岩田氏の話を伺った。

インタビュアーとして、スタジアムDJの男性が阪神のユニフォームをトップスにまとって登場する。そういうお仕事もするんだ。

お話中頑張ってメモをまとめたので、そこを見ながら記憶を再現する。細部やニュアンスは間違っているかもしれない。

 

Q:今日はバッティング練習してる選手がいないですね。雨のほうはそれほど降っていないようですが。

A:試合のコンディションのために(グラウンドの、か選手の、かはわからなかった)、こういう日はバッティング練習は室内でやります。雨が降った後の甲子園は嫌なんですよね。日が照って、乾いてくると違うんですけど…

 

Q:デーゲームの時はどんなスケジュールですか?

A:先発投手の場合は、10時には練習が始まります。まずはスタートダッシュで体調を確認したあと、キャッチボールですね。キャッチボールの相手は大体決まっていたり、その日なんとなく決まったり。

(いつも同じ人とキャッチボールする選手もいるんだ…なんかかわいいな)

 

Q:試合前はどんなことを考えているんですか?

A:先発の時は、「今日も勝ちたいな、相手は誰かな」みたいなことを考えていました。僕がプロにいた頃は予告先発制ではなかったので、相手チームを騙すためにあえて別の練習をしてみたりね。そういうときはランニングが減るので内心ラッキーと思ってました。

(やっぱ練習はどんな選手でも嫌いなもんですよね)

 

Q:今年の阪神はどうでしょう?

A:今年は強いです。岡田監督になってから、守備の意識が変わったと思う。野球というのは、守備7、攻撃3です。打率というのはどう頑張っても三割ぐらいでしょう。

(これは著作でもおっしゃっていたような。ピッチャーの自負を感じます)

 現役ピッチャーについてちょっと厳しい評価の話があったような気がするが、ここは私がちゃんと聞き取れているか自信ないので割愛。

 

Q:注目の選手は?(前の聞き取れなかったところの流れから、左のピッチャーの話題だったかも)

A:大竹(耕太郎)投手は頼もしい左ピッチャーです。左の先発陣は少ないので。あと、岩貞(優)投手。

(彼も左腕だ)

 

Q:岡田監督はどんな方ですか?

A:報道でもよく言われているけど、選手ととにかく話さない! 僕も現役時代、子供が生まれる日に早引きさせてもらった時にちょっと話したぐらいです。

 監督の思惑は報道などをチェックして推し量る感じですね。

 岡田監督は勝ち方を知っている方です。

 今年は「アレ」するんじゃないですかね。

 

この後、質問コーナーでもいろんなお話が出たが割愛。藤原球児さんと仲良しだよとか。今年はヤクルトが怖いとか。今のところヤクルトは苦戦を強いられているので予言が当たるのはこれからか。村上さんが開眼しないと…。

 中継ぎの場合の心理なんかはとても面白い話だった。中継ぎの場合はいつお呼びがかかるかわからないんだけど、テレビ中継で観戦しながら、出番になりそうかどうか、考えてるそうです。自分の特徴(左投げだとか、そういう)のも考慮に入れつつ、監督の思考を読むんだそうな。プロ野球は紛れもない「仕事」だな、と思った。俺たちはどうだ。上司の気持ちを読んでいるか? 岩田さんはその辺りの心得を藤原さんに習ったそうだ。

 

 その後、ふわふわした気持ちのままツアー終了。バッターたちの姿は見られなかったが貴重な体験だった。

歴史館の展示も一通り見ると、スコアボードのすぐ下(MITSUBISHIの看板のあたり)に出られる通路がある。球場の開場後は入れないエリアなので、行きたい場合は展示を見るのはどうしてもそこそこになるが、行っておいて損はない。すごく特別な気持ちになれる。

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阪神ファンでなくても、野球ファンなら行って損はない。できれば解説付きスタジアムツアーに行って、往年の選手の元気な姿を見ておきたい。