日月星辰ブログ

Vive hodie.

読書感想:稲穂健市「こうして知財は炎上する ビジネスに役立つ13の基礎知識」

 新書なので楽勝で読み切れる、と思っていたけど1週間ぐらい読んでいました。本文はとても読みやすくて面白い。まったく知財の知識がないときついところはあるけれど、「基礎知識」の部分は註や図で丁寧に説明がされているので、そこで都度確認できる。もとより、例えば特許の有効期限とか、そうすっと「わか」られるほどシンプルじゃないわけで、ややこしいのはややこしんだからしょうがない。ややしょ。

 

 著者はなんというか、知性が暴走するタイプの知識人のようで、弁理士のほか、アメリカの公認会計士の資格を持っていたり、科学ジャーナリストとしても活躍しているそうである。すごいバイタリティで、こういう人になってみてえなあ、と素直におもう。

 本文の中にはときおりちらちらとギャグも交えつつ(たまにダジャレ、事例におかしみのあるものが出てくるなど、やり方が巧みで好もしい)ただでさえおもしろい他人のもめごとがどんどん紹介されてくる。知財の話に絞られていてもまあ、他人のもめごとだしね。他人のもめごとの求心力やばい。結局わたしもでばがめということである。ちょっと古い本なので、「PPAP騒動」やら、JASRAC音楽教室への著作権許諾料徴収騒動などといった、ものによっては懐かしみのある話題がちょいちょい出てくるし、法律もこの5年で改正がいくつかあったので、現行法律をカバーしているわけではないのだけれど(著作権の延長とか、コンセプトの意匠とかね)、根本的な問題点や話題、ものの考え方は十分今も通じるどころか、今まさに知っておくべき情報に満ちている。個人的には巨大企業の経済活動にはあまり興味はなかったのだけど、アップル・グーグル・アマゾンのいずれもがタックスヘイブンなどを絡めた脱税ぎりぎりの節税をしてて、EUなどに怒られてたっていう話は大変面白かった。本書の最後の章に出てくる。なにその、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ って。スタバのメニューかなんか?

 ともかく上から目線抜きでおすすめ。

 「本書を読む意義」めいたところは著者のあとがきに代弁していただこう。

 

本書のタイトルは、「こうして知財は炎上する」という、少し「煽り」の入ったものとなっています。最近の傾向として、知的財産権に関する事件が起こると、法的には問題なくても「炎上」する事例が増えています。一般の方々に、感情に流されてヒステリックに騒ぎ立てないための「知財リテラシー」を身に付けてもらうことも、本書に込めた私の願いです。