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読書感想 橋本治『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』

橋本治『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』

ばきばきの名文家であることはわかっていながらなかなか読めていなかった橋本治。いつか遺作となった超分厚い本を手に入れたいが、その前に「仕事」に一礼しないといかんだろうと。
三島由紀夫は「三島由紀夫」という「人」ではない、というスタンスがタイトルにも滲んでいる。「何者」ではなく「なにもの」なのだ。上流階級の恵まれた境遇に自ら閉じこもっている「作家」ではなかったか? という橋本の分析による、三島由紀夫論。主に引用されるのは「仮面の告白」「金閣寺」「禁色」「豊饒の海」の三つなので、このあたりは読んでおくとすんなり読める。っていうか、それを読まずにいきなりここから行くって言う人もいないと思うけど。
「同性愛/マザコン/女装癖/ナルシシズム」のせいで云々、というつまんねえ話には無論なっていない。が、序章で「三島由紀夫って実は趣味わるくね?(意訳)」って橋本治が思い始めるところからぐいぐい掴まれた。薄々思っていたのだ、多分、みんな。
 書き割りの、偽物の、虚構の、子供騙しの箱庭の、そう言う世界に居続けながら最後は虚無に身を投じるように死んだ作家、と言う読解…なんだと思う。手塚治虫とはわりあい仲良くしてたそうですよね。漫画の話は出てこないけど、そのあたりのつながりを橋本がどう読み解いたのかとか気になった。もう橋本治もなくなりましたね…
 豊饒の海は月の、もとより枯れた海の名前。三島由紀夫が設定した仮面の奥には、誰も居ない、という。
 水谷八重子の黒蜥蜴に、芥川比呂志明智小五郎の初演の黒蜥蜴めちゃめちゃみたかったわい! 生まれてないけど!