日月星辰ブログ

Vive hodie.

エリザベス 女王陛下の微笑み 感想

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(入り口のポスター撮った)

 

ドキュメンタリー映画と見ると、題材に興味があったら見に行くようにしている。本で読むより手っ取り早く、なおかつビビッドに知識が手に入る。ところがこの手の映画はフィクション映画に比べて興行が振るうことは滅多にない。大ヒットしたものはたいてい、一見ドキュメンタリに見せてなんらかの脚色が付いている。あるいはどぎつい告発か。近年のヒットものを考えても「再現ドラマ」と「本物フィルム」をつないで作ったやつの方がヒットしてるのだが個人的にはアレ系の興の冷めようと言ったらない。どんなに名優が、どんなに本人に寄せてきても、そうなって仕舞えばしまうほど、それは情報としてはフィクションなんである。三国志映画と同じなのだ。ボヘミアンラプソディはドキュメンタリー映画じゃなくてリアルに取材したフィクションだし、実際興行側もそう謳っているはずである。NHKの日曜8時の大河ドラマはあくまで大河ドラマで、「真実」ではないのと同じく。

 

それでも映画として編集する以上、なんらかの「解釈」なり「作り手による物の見方」が入ってくる。その点エリザベスは流石にBBC作成だけあってきちんとしており、再現ドラマめいたシーンはない。何しろ対象がまだご存命なので新規映像も撮れるし。また自国の国家元首を国営テレビが取るので題材に対してそんなに批判的だったりはしない。そこそこシニカルなところもあり、表現に注意深いところはあるのだが、あからさまなプロパガンダは避けつつあくまで女王のお人柄の良さだったり、おっとりとした無邪気さだったりを強調する演出なところ、--なんだろう、一番近い感情としてはなんだが「なるほどねー」というやや上から目線な気分になった。

 

日本という、極東の、かつて大英帝国プロイセンをモデルケースにそれを目指し失敗した敗戦国で、なおかつ支配国の温情で王制だけは維持させられた経緯を持つ国の国民として、ついそういうとこを見ちゃう。英語話者の彼氏ときてた日本人女性らを見かけたが、どんな気持ちで見てるんだろう。もう彼女らはとっくの昔にイギリス人のつもりであり、マイロード万歳って気分なのかな? うちの女王、みたいな。

映画の中で、「コモンウェルス・オブ・ネイションズ加盟国の一つ」としてジャマイカの大統領とかでてくるんだけど、案の定ここで複雑な気持ちになる。

日本のエネチケーが宮内庁全面協力のもと、同じような趣旨の映画を撮って、全世界に配給したとして、果たしてどれくらいの人が見てくれるんだろうか。エリザベスも二週目金曜夜にしてなかなか切ない入りだったが、じゃあ「陛下」なら…? 上皇でも良いけど。せいぜいが日曜早朝の皇室アルバムみたいな退屈なしゃしんが出来て、見に行くのは日本のおじいちゃんおばあちゃんばっか、みたいな感じか。いや案外、トルコあたりの歴史好きな、一生トルコで暮らしていくつもりの一中年女性が見に行くかもしれん。

ムコウサンにも王室追っかけファンがいらっしゃったり、一般参賀みたいなイベントには人が大勢集まったりするようであり、その様は一見日本の皇室ともあまり変わらない。21世紀の王様のスタンダード。一点違うところは、女王には首相が政治に関して質問に行って良いことになってるらしい。いざ戦争とかになったらどうすんのかな。ともあれあの伝統「君臨すれども統治せず」は守られている。

 

とはいえ元首は元首なのでドイツでは腐った卵を投げられたりもするようではある。

 

古いフィルムに後から音を追加したり、自国の新旧の音楽を巧みに重ねたりする編集はなかなか面白かった。鳩の群れの映ってる古いシーン(女王の父、ジョージ6世の葬儀のソーンだったと思う)で鳩の羽ばたきを入れたりとか。結婚相手とのシーンで古めのポップスを重ねてるんだけど、歌詞からすると貧乏少年の恋の歌だったりする。そういうセンスやバランスが、あの国なんだろうなあと思う。

 

今の王室もウィンザー朝なんですね…1707年から続く王朝がまだあるってすごいやと思うが、日本こそ実質王朝の交代はなかったわけだからなあ…

 

王制、21世紀まで生き残ってる謎の制度。