床屋談義、などという言葉があるが、美容室で髪の毛を切ってもらっている間の話題って長い時間を共有せざるを得ないが故に割と立ち入ったものになりやすい。
私の場合、カラーやブリーチを入れることもあるので、作業時間二時間ちょっとの中の多分30分ぐらいは、美容師さんと差し向かいでいなくちゃならない時間がある。黙っているのも気づまりである。
もう数年通っている美容師さんなので、どんな話題を話しておけば鉄板か、というのが大体決まっていて、なんとなく暗黙の了解で鉄板ネタは映画の話、と相互了解していた。
ところが、この自粛期間中、映画がやってないのである。
趣味までかぶっていればいきなり旧作の、最近偶然見つけて見ただけのマニアックな作品の話を急にぶっ込んでも大丈夫かもしれないが、それほど趣味はかぶっていない。
実際、普通に映画やってる期間中もそれで困った。
「最近何か見た?」
「あのー、『曹操暗殺』っていう中国の歴史映画を」
へえとか何それとか、美容師さんは形は驚いて見せてくれるし、内容について質問もしてくれるが、曹操はさほど広がらなくて当たり前である。でもその頃、曹操しか見てなくてさ。
映画はたまにそういう不幸な展開もあるが、大体時期ごとにかかっている作品が同じで、映画館に行くのが好きな人であれば、たまたま同じものを見ているという確率も高い。ヒット作品なら打率がさらに上がる。だからヒット作っていうんじゃないか、と思うぐらいである。でも、今はやってないから。
今日はたまたま美容室も久しぶりの営業再開のせいか、混み合っていたので、話題がそんなになくても沈黙で気詰まりということもなかった。
「マスクとかしてると、髪型の様子決めにくくないですか?」
「要所要所で外してもらってる」
カラー中と顔まわりを切るときだけ、マスクを外したりした。
「しかしマスクいつまでも慣れませんねえ」
「たまに忘れて外出しちゃうと、なんか気まずいよねえ」
自ずとというような会話になる。
芸能人やモデルさんが、何か生活の知恵みたいなことを話すときの前置には「メイクさんに教えてもらったんですけど」っていう。
あれもきっと、床屋談義の亜種だろう。あれがまた、なかなかキャッチーで、ためになることが多い。
メイクさんに聞いた「秘密の話」みたいな本があったら欲しい。
きょうのご飯。贅沢して熊本牛のランプを買って焼いた 焼いたあとアルミホイルにくるんで中まで火を通す技はメイクさんでなくてユーチューバーから習った。