日月星辰ブログ

Vive hodie.

読書感想 開高健「声の狩人」

 

開高健「声の狩人」

開高健のファンではあるものの、全集かっちゃおうかな、って10年ぐらい言い続けてまだ買ってない不貞のファンである。全集は高いし部屋が塞がるので躊躇しちゃうよね。この岩波新書ルポルタージュも読んだことなかった。近くの古本屋で青表紙のむかしのままのやつを見つけたので買って読んだ。
イスラエルの塩の湖で「死の世界」をわーっと中国の漢詩もかくやというぐらい大袈裟気味に描く描写と、権勢を誇っていた頃にはりゅうとしていたのがずいぶん惨めになってしまい、テープレコーダーのようにおんなじことを繰り返す(「命令でやりました」)ナチスの残党・アイヒマンの裁判の様子、そのころのイスラエルの様子、ソビエト連邦の核実験についてのロシア人の見解やら、イスラエルのキブーツっていう共同生活コミュニティ、東西に分かれれたころのベルリン、そして、フランスでのサルトルとの40分のインタビューの様子なんかを納めた本。エピソードの選び方、ものの見方、それを描写に落とし込む言葉、どれをとってもきりきりと尖っていて、通りいっぺんではなく、一つの章に何が書いてあったか覚えきれないぐらい。
 そのくせページ数にしては200ページぐらい。密度が高い。これこそが「文章」だ、と思わせてくれる。

サルトルにあって「なんの成果も得られませんでした!」と言うわけには行かないのだが、日本人作家二人に相対したサルトルは必ずしも「サービス精神旺盛」ではない。紳士だけど。記者が聞きたい言葉をうすうすわかっているかもしれないが、それに応えるほど親切じゃない、っていうか。