日月星辰ブログ

Vive hodie.

ドルチェ&ガッバーナの新しい香水

香りと記憶は結びつきやすい、という。今年のドルチェ&ガッバーナの夏の新作香水と私の出会いは、まあ幸運半分、不運半分といったところか。

昨年大ヒットした「香水」という歌ーーあまりの大ヒットにあの曲を聴くと少々うんざりするという人まででたアレーーで歌われるほど、ドルガバの香水は名品らしい。わたしは香水についてはよく知らないのであくまで例の歌の歌詞からの想像だが、随分前に別れた、イケてて少々美人ながら、多少お高く止まった、共感能力にいささか乏しい女性が昔からつけている香水というポジションからは、万人受けする、つけときゃ間違いない手堅い防具のようなものなのではないか、と考える。ファイナルファンタジー3におけるリボンくらいの。えっそれ結構ハイスペックじゃん。

池袋西武の一階の化粧品売り場は、他の街のデパコス階に比べるとわたしに取っては少し入りやすい空気を醸している。気のせいかもしれないがもっと入りやすいのは北千住のルミネで、池袋に次ぐのが意外と銀座松屋である。渋谷とかは怖い。いい中年がデパコス売り場におそれをなしているのもみっともない話だが、気の置けない距離に置くにはBAとかいう人たちはキラキラしすぎている。そうは言っても数回はお世話になったこともあるくせに恩知らずな話だ。とまれ、その池袋西武のデパコス階の入り口に彼女はにこやかに立っていた。

「新しい香水です! お試しいかがですか?」

 と彼女は言った。一度は知らんぷりして通り過ぎようと思ったが、あまりに楽しげに仕事をしている彼女に気を引かれて、戻った。

「一枚ください」

 と、香水を吸い込ませたサンプルの紙をもらうことにした。もとより買うつもりはない。深く考えるとどうして立ち止まったのか、それほど強い動機はなかった。やっぱり、楽しげに仕事をする彼女に引かれたとしか思えない。

「二種類、あるんですよ。こっちがレディスで、こっちがメンズなんです」

 レディスのほうはシトラスが勝った香り、メンズの方が華やかな香りだった。確かに、夏を思わせる。香りひとつで1日太陽に照らされ、疲れ切った後みたいなあの夏の夜の気配が忍び寄ってくるようだった。バーベキューやキャンプファイアーで盛り上がった後の夜みたいな。

「一足先に夏がやってきたみたいでしょう? 良かったらつけていきますか?」

 正直なところ、ドルチェ&ガッバーナを纏うような格好はしていなかった。UTのゴールデンカムイコラボTシャツに、洗いざらしてよれよれのスカート。おまけにおりからの豪雨で裾がじっとりと濡れている。足元は長靴。高見えともハイスペックとも無縁と言うか、むしろどちらかと言うとカジュアルを通り越して投げやりな身なりである。

 いささか気恥ずかしくはあったが、すみれの香りを基調とするというメンズフレグランスの方を手首に一ふきしてもらった。

 シチュエーションはそこそこ素敵だが、ディティールがいささか残念である。

 今手元には2枚のサンプルの紙と、未だに華やかな香りの残り香が香っている。