日月星辰ブログ

Vive hodie.

読書日記:アガサ・クリスティ「第三の女」(ミステリ)

第三の女 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

第三の女 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

実は私、いわば「第一の女」なのである。
何の話かというと、シェアルームの話。この作品の中に出てきた三人娘(と言ってもお互いに仲良しというわけではない)の身の上が、ちょうどよくぴったり、マッチしていたのである。
もっとも、私たちのほうはお互いに気心が知れている仲でもあるし、彼女らのようにお互い何のつながりもない、という関係でもなければ、あちらの「ファースト・ガール」クローディア・リース・ホランド嬢は私とは似もつかない、美人で有能な女の子であるが。
さておき。
ポアロものはそんなに好きではなく、というかアガサ・クリスティの食わず嫌いの時期が結構長かったため、せっかくのイギリス在住・ベルギー出身の優雅な探偵さんの事については、ごくごく最低限の知識しか持ち合わせていないなか、なかなかこの作品は楽しめた。何しろ舞台が良い。ロンドン。その郊外のロング・ベイジングのたたずまい。三人の娘さんの住むボロディン・マンション(我がちよだびるよりは明らかに良い住まい!)。それから登場人物の居住まいも良い。われらがポアロはさることながら、お茶目でちょこまかとした動きが容易に想像できるアリアドニ・オリヴァに、名前からして酸っぱくてすっきりしていて、その有能さが想像できるミス・レモン、「孔雀さん」とあだ名されるデイヴィッドもなかなかかわいらしげであるし、その他キー・パーソンらのキャラクターもなかなか立っている。トリックは…まあ「無理があるよ」とか言いたくなるところもあるしちょっとアンフェアだなあ、とも思ったし、何より動機の面で退屈してしまったのでそのあたりは。
これ以上書いてしまうとネタバレになってしまうんだけど、不美人さんにちゃんと幸せを用意してあげるところに、アガサ・クリスティの優しさを感じた。世界中に愛読者を持つ作家は、やっぱりどこかに、優しいところがあるのだ。