――もしかして私、閉じ込められた?
というヒキで引っ張った、昨日のお話のつづき。
まだこれで、残業組のスタッフが少しでも残っていたのなら良い。3人もいればことわざ通り良い知恵も出るだろうし、心強いということもある。
悪いことに、私一人である。
おまけにうちの会社は、どうもそういう感覚の強い人に言わせると「アレ」らしい。「アレがでる」のである。
そんなのに遭遇してしかも扉が開かないとか、どこのホラー映画ですかねそれ!?
と半ばぶちきれる。ひとしきり切れたところでまあ冷静になろう、と、ひとまず電話でヘルプを求めることにした。
ところで私は、社内にあまり仲の良いお友達がいない。
こういうときに、抜かりなく適度な距離感を保っていれば…と後悔するが、いまさら騒いだってしょうがない。
iPhoneの電話帳を見てみると、業務で必要になったことのある電話番号がいくつか登録してある。なんとなく、会社のことをよく知っている人順に電話してみるが、8時半ぐらいとなると、定時で帰った人にとってはスーパーくつろぎタイムである。出るわけがない。
仕方なく数分おきにじゅんじゅんにコールをしながら、ツイッター(禁じてたはずなのに!)で時間を潰す。というか、こんなネタ、つぶやかいでか。
つぶやいたところで新宿のカメラやのトイレで紙がなくなった人ほど同情はされず、かるく茶化されただけだったので余計に腹が立って、後悔する。こっちはマジ深刻に困っているってのに。もちろん温かい同情の言葉をかけてくださった方もいましたし、そういう言葉って言葉だけで充分な回復効果がある。ひとしきり感謝してリプライしたりして気を紛らわす。紛らわさないとアレのことを考えてしまいそうなのである。
数回目ぐらいで、おそらくいちばん会社の庶務について詳しい人が、でてくれた。仮にαさんとする。
「何?」
「遅い時間にすみません。会社の通用口の鍵が壊れたようで、開かないんです」
「えー。外から開けようとしても、開かない?」
「外からって、でられないのに確かめられないです! もう消防車呼んでいいですか?! いいですね!!」
「うーん…。でもそれだと、結局解決にならないよね。仮に外に出られたとしても、留守番してもらうことになるよ」
「ぐむむ」
「正面玄関からでてみたら?」
それはすっかり忘れていた。
正面玄関には2つの鍵で閉まるタイプの観音開きの、ちょっと学校のエントランスに似ている大きな扉がついている。確かにそこからなら、少なくとも外にはでられるわけだ。