日月星辰ブログ

Vive hodie.

読了:『三国志の世界』

これの第3次配本、『三国志の世界』を読みました。

刊行はすでに約10年前ですが、講談社の「中国の歴史」の叢書シリーズとしてはこれが最新版です。そろそろまた、新しいのが出るかもしれない。こないだの曹操墓の研究が進めば、更にいろいろなことが分かるのではないだろうか、とわくてかしているわけですが、前回が1970年代(ちょうど、国交正常化の2年ほど前)で、スパンが30年ほど開いているので、次があるとしてもあと20年は待たねばならないのか。

この叢書、ラストが「日本にとっての中国」となっているのがとても今様だと思います。タイトルも凝っていて、王朝の名前ベースになっていない。ただ、「三国志」だけは「三国志」と書いてあるのはやっぱりしょうがないのかなと思います。この巻だけやたらに売れてるのだろうか。やっぱり。

さて、中身ですが、通史的な流れの把握と、政治・文化・宗教的特徴(中国に儒・仏・道が登場した最初の時代、とあります)、あとやはりといってはなんですが、「邪馬台国周辺諸国との外交」というテーマがあり、さらには現代の東アジア情勢との関連まで視点を広げて、締めくくっています。

基礎的お勉強のお供にも十二分な感じですが、嬉しいのは随所に、人物の逸話が添えられているところ。具体例として人物の逸話がその信ぴょう性の有無の検証も丁寧に添えられた上で書かれているので、これは嬉しいです。私が好きな引用は孔融の「子供なんて男女の欲望の果てに生まれるものなんだから、孝なんてどうでもいい」というような内容のパンクな発言です。あんた、儒者なのにそんなこと言っていいの。でも、いいこというな。

この時代のみならず、多分こういう、史学的な視点から言うと、武人・軍人というのは政治に深く関わらない限りは脇役なので、武将という観点からはあまり情報が得られないのが歯がゆいですが、武の視点からの研究ってあるのかしら。そもそも資・史料が少なくて研究にもなんにもならん、ということなのでは、と思います。どうなのかな。