日月星辰ブログ

Vive hodie.

希望

かれは、ある希望をもっているようである。

帰り道に必ずいる。アパートの階段のかげに、へたな隠れ方で潜んでいる。見つけてもらえる前提の隠れ方だ。その方が効果が高い、と知っているらしい。

自分からは決して要求しないのが、いかにもかれの種族らしい。じっとまるくなって座って、あらぬ方向を眺めている。こちらは見ない。すこし俯いているうなじのラインがわれわれを虜にする事もまた、よく知っている。

すこし体臭がするときもある。ほのかなシャンプーの香りの時もある。後者の場合は、やはり誰かを、そのうなじのラインでおとしたのだろう。われわれは足を止める。かれをだきあげる。するとかれは意外な貪欲さで、ひしとこちらの肩にしがみつく。自在に出し入れ可能なつめが、われわれのコートや、マフラーや、時に手首のかさついた皮膚にひっかかる。

ひとりぼっちです。

さびしいです。

かれはひとびとにそう耳打ちする。いつか、だれかが聞き届けて、かれを終生の伴侶としてくれるにちがいない、という希望をいだきつづける。