日月星辰ブログ

Vive hodie.

検定勉強(著作権検定)

会社の図書室で「著作権法判例集212」という本を見つけたので、最近、会社でそれを隙間時間に読むことにしている。コロナ禍で今は試験そのものがないようなのだが、いずれ著作権検定上級を受けようと思っている。

 法律は全く馴染みがなく、せいぜいが良識的な大人であるぐらいの知識しかないことはあらかじめ断っておく。

 

今日見つけた面白い判例は、「古文単語の語呂合わせ侵害事件」。裁判まで行けば傷害や殺人でなくても「事件」というのだというところも面白い。なんでも面白い年頃である。赤ちゃんがいないいないばあで笑うのと同じようなもので、学びはじめというものはなんでも面白く感じる。

 

赤ちゃんレベルの驚きで、法律を専門とする人がみたら今更何を、となるかも知れないが、いい大人になったからこそ法律文にある種のお茶目さを感じるのは致し方ない。逆に普通文にある程度触れた人間でなければ、法律文のキュートさには気づかないのかも知れない。

 法律文は、人によって解釈がブレることを極度に恐れているようである。契約書などもそうだけど、まずいちいち用語を定義するところから始まる。

 うかつなことは言えない。「古文語呂合わせ」もうかつに「ダジャレ」などは言えないという姿勢をひしひしと感じるタイトルである。もうすでにキュンときてしまう。

 とにかく解釈に曖昧さを許さないから、主文の「被告のTODO」もばしっと命令形である。

一 被告は、原告に対し、金10万円及びこれに対する平成10年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 

 びしっと命令形。小気味が良い。「支払うこと。」とか「支払ってください」みたいな言い方はしない。「支払え」。「お金」と言っては行けないので「金員」となっている。員をこの意味で使うのはもう法曹界しか残っていないのではないか。

本判決では「創作性」が争点となっている。被告が原告の「語呂合わせ」をぱくったか、ぱくらないか、のチェックであるから、まあそうなるのであろう。

 判決文では、延々と、被告の本と原告の本を照らし合わせて行って、「どこがぱくりか」を確認していく。その数、42件。

(十三)原告語呂合わせ13は、古語「あやし」とその現代語訳「賎しい」を一体的に連想させて、容易に記憶ができるようにする目的で、古語と発音の類似し、かつ、現代語訳と意味のつながる「アッ、椰子」という語句を選択して、これに「の実だ」、「いやシイたけだ」を続けて、短い文章にしたものである。
 右語呂合わせは、古語の発音類似語と現代語訳との単なる組み合せだけで構成されたものではなく、付加的に表現された部分があることから、原告の個性が現れたものとして、創作性が認められる。

  これは創作性が認められた部分。主文でタネは明らかなので、まあこれはいいんだけど、

(三十三)原告語呂合わせ33は、古語「うるはし」とその現代語訳「きちんとしている」を一体的に連想させて、容易に記憶ができるようにする目的で、古語と発音が類似し、かつ、現代語訳と意味のつながる「ウールは下着」という語を選択して、これに「きちんとしている」を続けて、短い文章にしたものである。右語呂合わせは、ごく平凡で、ありふれたものであり、筆者の個性を発揮した創作的表現とまではいえないから、著作物とはいえない。
 なお、右語呂合わせにおいて、「下着(したぎ)」を付加した点に若干の個性が認められたとしても、被告語呂合わせ33には、右部分は存在しないから、著作権侵害はない。

  こういうのもある。

 原告は「パクったねたの数」で勝負をかけたらしい。一方被告側は、数だけで勝負ってどうよ、解説部分はオリジナルだろ、というようなことで反論したりしている。

 ニュースなどで伝えられる場合はせいぜい「どっちが勝った」ぐらいしかわからないが、原告が請求した慰謝料と、判決によって命じられた慰謝料の多寡などでも、いい感じに落とし込んでいることも、わかる。

 語呂合わせ部分で重なっているところの摘出はさすがに原告が作ったのだろうが、これをいちいち照らし合わせて侵害があるかどうかチェックしている。それを読んでいるだけでも楽しい。大真面目に「ダジャレか、ダジャレじゃないか」を検討している裁判官等の顔を思い浮かべるだけでにこにこしてしまう。当事者には大問題なのだろうけど…。

 ウールは下着 じゃないよ。

 

 殺人事件までとはいかないまでも、こうした民事裁判も、それなりにドラマがあり、のっぴきならない理由があり、怒りがある。判決が出たからといってなかなおりできるものでもないだろうし、そこには人間同士の決定的な決裂があるはずである。それでもつい、面白がってしまうのは無知ゆえの残酷なのかもしれない。

 

最後に判例全文のURLを。

www.translan.com

 …著作の方は解説も味わい深くて、もう少しコンパクトになっている。