日月星辰ブログ

Vive hodie.

おやすみプンプン


職場の可愛い後輩の女の子から借りた話題作です。その子こそ田中愛子だぜ! っつーぐらい可愛いのだが、それはまた別の話。

この出オチマンガ!

プン山プンプン、の壮絶なる絶望人生、というなんか本当に、「時代と寝てる」作品でした…っ!

「時代と寝る」という表現は佐藤亜紀の表現です。「小説のストラテジー」って言う本に出てます。作品の中に流れる空気だとか、テーマだとかが時代に沿っているかどうか、を「時代と寝る」という表現になさったと。言い得て妙だし、佐藤亜紀らしいさばけた感じがかっこよく拝借です。

以下、作品の本質に触れる(ようするにねたバレ)なので隠します。

 さて、プンプンですが。
 話題云々は取り敢えず脇に置いておいて、単なる出オチと見せかけてすごいウルトラC並に巧妙な作品だと、思った。
 なんか出オチなんで、何を書いてもネタバレっぽいですが、あの、プンプンのキャラクターデザインのせいで、かえって読者はプンプンに過剰な感情移入を出来る。プンプン=一人称の視点、という一貫した語り口にもそのねらいは現れていて、「自分という者を見据えられない」「存外自分の姿は定かには知覚していない」人間というもののリアルな視点を表しているようにも、思う。自分の外見なんて一番、はっきり知覚し得ない者だし、となれば、プンプンばりのシーツかぶったダレカサンでも違和感ないわけ、だ。

 しかし、それを三人称的な視点を持つ「マンガ」という媒体で表現したとたん、にわかに画面はシュールになる。このシュールさって、なんか大江健三郎的だよね、とか言っているから私は雄一みたいな人生なんだ。くすんくすん。

 プン山(小野寺)家族の誰かに感情移入できると、すごくキます。来る作品です。プンプンでも、雄一おじさんでも、お母さんでも、プン山氏でも。みな、誰もが持っている善人らしいがどう考えても卑怯な「よわさ」をふんだんに表現していて、胸くそ悪くなるぐらいです。そして感情移入はわりかし容易に出来ます。初心者ならプンプンを一人称視点に持って来ればいいんじゃない。

 と、同時に。どうもプンプンという主人公は「唯一の非日常」のように書かれている節もある。周りのキャラクター、背景がすべて過剰なまでにリアルなのも、その「非日常」を一層煽ります。人間不信に陥ったプンプンがふともらした「周りみんな宇宙人なんじゃないか」という独白は同時に、「お前はホントはやっぱり宇宙人かい?」という形で読者の脳をよぎります。この作品、リアル描写の「リアルさ指数」で、現実とマンガという非日常との間に数枚のレイヤーを重ねていて、「一番澄んでいる『概念のみの世界』」=プンプン、「お友達などの『息をしている現実』」=田中愛子ちゃんなどのマンガふうの絵、「物体としての人間、あるいは妄想」=リアルな写真タッチの絵 という感じになっていると思いました。物語自体はちょっとありがちな悲劇マンガのオムニバス、なんだけれども、語り方を変えるだけでこんなかんじに、「夜を徹して語りたくなる」漫画になるんだなあ。不思議だ。
 あーでもね、描かれる悲劇はなかなか味わい深いものがございます。お気に入りエピソードは清水と関の共依存っぽい友情、かなあ。

 今のところ4巻までをお借りしているのですが、この先、成長したプンプンがまたどんな絶望の淵を歩いてゆくのか、いっそ楽しみになってきました。…雄一は、たぶんあれだよ、二の轍を踏むよ。