日月星辰ブログ

Vive hodie.

888 イアン・フレミング「007号 黄金の銃を持つ男」

007/黄金の銃をもつ男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

007/黄金の銃をもつ男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

それなりにスケールの大きなお話でも、登場人物を結構絞ってしまえるものだ、とこれを読んだあとに感じた。
特に敵方は、スカラマンガ独りに絞り込まれていると言っていい。スカラマンガのお仲間の何人かなんてほとんどエキストラだし、むしろ彼には決定的な相棒も助っ人もいない。悪人はいつだって孤独だ。
とはいえ、ボンド側も秘書のボンド・ガールメアリ・グッドナイトの他には、ちょい役のティフィとか、あとせいぜいアメリカ側の助っ人数人とか、やっぱり結構孤独な戦いなのである。この話では敵方に女がいないのがちょっと寂しい。ギャングものには悪女でしょやっぱり。
プロットも今思えば随分シンプルなものだ。もちろん、この「黄金の銃」は前のお話が無いとそれこそお話にならず、007シリーズの世界の広がりはまさにシリーズを通して世界を股に掛けるボンドのかっこよさに由来するので、これだけ読んでプロットがシンプルというのはちょっと申し訳ないような気がする。

しかもこれ、007の最終話だし。作者イアン・フレミングはこの作品の校正中に心臓麻痺で斃れたのだ。

前作の「007は二度死ぬ」でそれこそ生死不明の絶体絶命に追い込まれたボンドの、これは復活第一作であったのではなかろうか。冒頭は前作を引きずったちいさな事件の挿話があり、そこがむしろ要なんじゃないかと思われるどっきりで、却って本題の「黄金の銃を持つ男」はドクター・ノオほどに恐ろしげなわけではなく、むしろジェイムス・ボンドのネガ反転のように、なんか贅沢で、モテそうで、残忍で不死身だった。スカラマンガって言う名前もなんか、異常な性格のギャングと言うよりは南米の戦士の名前のようだ。もっともそのタフガイも、結局わりかしあっけなく死んでしまうし。ホントはこのあと、南米を舞台にあれこれ陰謀が張り巡らされ、スカラマンガなんかより大変な黒幕が…、、というのを期待してしまう感じの、つまりはちょっと物足りない感じであった。
007と言えばこないだ「カジノ・ロワイヤル」のリメイク版が作られて、あれのギャング・ボスもなかなか顔が青白くて唇が赤くて気持ち悪くて良かったんだけれども、ねえ。「黄金の銃」はボンドがあれほどくたくたにされないから安心して読んでいられました。病み上がりだしね。穴の開いた椅子に座らされてお尻を蹴り上げられるとか、誰が考えたんだ誰が。痛々しい。リメイク版の秀逸なところは、思い切ってMを女性にしたところですよね。