日月星辰ブログ

Vive hodie.

嗚呼天に神ありやなしや(魂剥落編・後編)

 ぜんかいまでのあらすじ
 ある晴れた海の日、私は張遼を忘れてきました。

★  ◆  ★

 「かわいそうな張遼。一生懸命攻城して、後ろ振り返ったらひとりぼっちで取り残されて」
 …というのがMじんこ嬢の比喩を含んだ揶揄のセリフでした。うまいこというじゃねえか、このう、と思いつつ、よけいのことたかがカードに情が移ってしまい(それは前からですが)、ちょうりょうー、ちょうりょうーと呟きながら朝五時ごろにうとうとと眠りについたにもかかわらず、明けた19日の朝、私は通常の平日と同じ時間に、ぽっかり眼をさましました。
 つかの間の睡眠でも頭がクリアになってくると、張遼とともに過ごしたあの戦場、この戦場がありありと頭に去来し、そうだよねあと城ゲージ3センチと言うところで張遼独りで相手を居て込まして、その上落城させて勝ったこともあったよね、郭嘉とセットで暴虐神速デッキだなんて行ってぶいぶいいわせたこともあったよね、などと完全に亡き友を思うモード。いかんいかん、こんな士気じゃ見つかるものも見つからない、と気を取り直し、いつもより念入りに身支度をすませると、家をでました。当然会社は半休で(くずくずしい)。

 梅雨明けらしいとろりとした紫外線が降り注ぐ、平日の午前中。開店したてのゲーセンに再び赴きます。もはや若干、人が入っているところがすげえ。とにかく中にはいり、スタッフルームらしきところにいた初老のおじさん(微妙に表現がかぶっている)に声を掛けてみる。その前に昨日使っていた台の上をそれとなくチェックしてみることも忘れません。まかりまちがってあのままそこにあれば私の勝ち! …あるわけないうえに、この平日というのにすでにプレイヤーが座っているし。
 「あのー、すみません、昨日の夜、三国志大戦というゲームのカードを忘れたのですが」
 努めて平静を装いつつ、それでも微妙に困った感を演出して、聞いてみましたところ、ああ、あれね、と心得た風の店員さんは奥に一度ひっこみ、古ぼけた木の棚の上にどっさり置いてあったカードの束を取り出しました。
 …君主カードの束を。

 ご存じない方のために少し解説しておくと、「君主カード」というのは、いわばセーブ用のIDカードという類のもので、銀行のカードみたいな外見をしていて、その中に今までの成績とか、そういったものが記録されているわけです。しかしIDカードといっても個人情報が入っている訳でもなく、99プレイまでしか使えない代物なので、結構使い捨てたり、何枚ももっていたりする人は多く、要するにまあ、筐体に放置されやすいカードなのです。そんなもん珍しくも何ともない。
 「あの、それではなく、人の絵とかが描いてあるやつなんですけど」
 「ああ、あれならこれかなー」
 と言って出してきたのは、「蔡瑁・文聘」。
 

いやー、絵描いてる人は一緒ですけどねー!

 
 という叫びは胸の中に飲み込みつつ、
 「あの、それではなくて、もっときらきらした…」
 「ああー、そういうのはまず、戻ってきませんよ」
 とにべもない。やっぱりね…。やっぱりそうだよね…。

 
 うわあああん!
 
 その後私はよろよろとよろけながら会社に行ったのですが、当然のことながら、当日はさっぱりしごとになりませんでした。きっと飼い猫に逃げられたような顔をしていたに違いありません。
 ああ、ちょうりょうー!

 天に神、ましますや。もしかしたら、ミラクルが起こるかも知れない、とそのゲーセンのトレード版に、すこし迷ったあげくに、下記のような趣旨の書き置きを残すことはわすれませんでした。が。
 
 「海の日、SR張遼を忘れてきました。拾われた方はご一報下さい」
 
 これで、連絡が来たら私は改心します。困っている人を見たら助けます。電車でお年寄りに席を譲ります。だから神様、…お願いします! 
 と、天に祈りつつ、その日は憂鬱な気分のまま、眠りについたわけであります。が…。

 以下次号(まだ引っ張るか)。